第16回エシカルインタビュー <笠間栗彩 ~kasama risai~(笠間市)・染くらふと工房 安穏(北茨城市)>
茨城県内のエシカルな取組を紹介する「エシカルインタビュー」。
今回は、「笠間の栗」の鬼皮を使った染め物、「笠間栗彩」について、北茨城市で染色を営む「染くらふと工房 安穏」へ赴きお話をうかがいました。
笠間市では、栽培面積日本一を誇る「笠間の栗」を、食べるだけでなく、栗の鬼皮や剪定枝など捨ててしまうものもアップサイクルして、全て使い切る活動を進めています。
「笠間栗彩」の作業工程。「笠間の栗」の文字を真っ白に染め抜くには、天気も味方につける必要があります。
「笠間栗彩」について
「笠間栗彩」の誕生は、2022年(令和4年)に「笠間の栗」のブランド化を進める山口伸樹市長が北茨城市にある「染くらふと工房 安穏」の染色家・佐川麻穂さんの作品と出会ったことがきっかけでした。
佐川さんは静かな山間の自然の恵みを布に染めて作品を作っている染色家。生き方を形にしたかのような作品はとても魅力的です。
「栗でもこのように魅力的な染め物ができないだろうか。」
この市長の問いに、佐川さんが染色家としての知見とクラフト作家としてのアイデアを融合させて形にしたものが「笠間栗彩」です。
「笠間の栗」を加工する際に廃棄される鬼皮を丁寧に洗い、時間をかけて煮出した染料液で何度も重ね染めをしています。
加工の際に廃棄される渋皮や鬼皮の量は全体重量の約50%にもなるそうです。
「最初に作ったのは『笠間の栗』のPRイベントで着用する法被。背中の文字の白さが映えるよう濃い色合いになるまで試作を重ねました」と佐川さん。笠間市農政課の職員は今、この法被を着て、日本各地を飛び回っています。
染くらふと工房 安穏の佐川麻穂さん。高萩八幡宮の「爺杉」(国指定天然記念物)のオガクズを用いた染色も手がけています。
色合いと作品の豊かなバリエーション
「笠間栗彩」は、作品の美しさはもちろん、「笠間の栗」のブランディングやアップサイクルといった取り組みなどが評価され、茨城県が主催する「いばらきデザインセレクション2024」において「選定」に選ばれました。
「現在、7アイテムが商品化されています。淡い色合いから濃い色合いまでバリエーションに富んでいますが、濃い色は途中で生地を休ませながら20回も重ね染めしています。」と佐川さん。期間限定となりますが、笠間工芸の丘で販売されており、ランチマットやコースターは日々の暮らしの中で「笠間の栗」を感じられる商品として人気です。
藍や柿など植物を使った染め物は、その色合いや風合いだけでなく、虫除け等の効果も人気の理由です。「笠間栗彩」はどうでしょうか。
「鬼皮にも柿渋と同じくタンニンが含まれています。その効果については調査が待たれますが、洗濯しても色落ちしにくい点も優れた特長です。色合いはそのままに洗う毎に穏やかに馴染んでいく風合いを楽しみながら長く使っていただけます」と、佐川さん。
一つのものを長く愛用することもエシカル消費につながります。
「笠間栗彩」のバッグ。
栗炭を紹介する笠間市 産業経済部 農政課 栗ブランド戦略室の藤咲篤室長(左)と「笠間栗彩」のラインナップを紹介する五島安紗美係長(右)。染くらふと工房 安穏の佐川麻穂さん(中央)はガラスポットに入った鬼皮を手に。
今後の展開について
これからについて質問すると、佐川さんは「笠間栗彩」で作られたサシェを取り出しました。中には鬼皮の炭。鬼皮の形をきれいに保っています。
「時間をかけて丁寧に染料を煮出した後の鬼皮を、高萩のNPOの方や北茨城で炭焼きをしている方の協力を得て、炭にしました。炭には消臭効果があります。かわいいサシェに入っているので、このまま靴の中や箪笥の隅にポンと置ける商品です。
そして、消臭の役目を果たした後は、砕いて土に混ぜれば土壌改良剤となります。
手塩に掛けて作られた『笠間の栗』を最後の最後まで使い切り、土に戻して、その土がまた新しい草木を育てるというサイクルを作れると良いですね」と、自然と対話しながら丁寧な暮らしを営む佐川さんらしい提案です。
「笠間市としても、枝葉まで全部使い、人々の暮らしの中で息づく『笠間の栗』として消費者に届けたい。剪定枝の焼却灰を笠間焼の釉薬に使ったり、鬼皮や渋皮をパウダーにして菓子の材料に使ったり、飼料にしたりと活用方法は広がっています」と、笠間市農政課の藤咲さんも展望を語ります。
「市内事業者の皆さんが自発的に、さまざまに栗を活用しています。それらを市としてもPRをしていきたいと思っています」と農政課の五島さんも続けます。
染色には科学的な知見が生かされています。この科学と、「ものを大切にしよう、自然とともに暮らそう」という人間的な知性が出会うことで、これからの暮らし方に意義あるメッセージを持った商品が生まれていきます。
ゆったりした時間と長い歴史を感じる、「染くらふと工房 安穏」の空間。
かつての穀物倉をリノベーションした作品展示室。草木染めの奥深い世界が広がります。
※見学には予約が必要です。
●笠間市産業経済部 農政課 栗ブランド戦略室
アクセス 茨城県笠間市中央三丁目2番1号
電話番号 0296-77-1101
HP https://www.city.kasama.lg.jp/page/page014723.html(市役所HP内 笠間栗彩)
●染くらふと工房 安穏
茨城県北茨城市中郷町
Instagram https://www.instagram.com/annon501/
見学のご予約 somecraftkoubou.annon501@gmail.com